※この記事は『災 劇場版』のネタバレを含みます。
私が信を置いている映画人が絶賛していたので、ほとんど予備知識を入れずに鑑賞しました。ドラマ版が存在することも後から知ったくらいで、今回は完全に初見です。
2026年公開
監督:関友太郎、平瀬謙太朗
主演:香川照之

視聴後の率直な感想を一言で言うなら、
「死」の擬人化を描いた作品
でした。
ただし、そのテーマ自体は理解できたものの、私にはどうしても物足りなく映ってしまいました。
「ある男」は死そのものなのか
本作では複数の人物のエピソードが並行して描かれます。
機能不全家族の中で受験を控える女子高生、飲酒運転による事故の過去を抱えた男、ショッピングモールの清掃員、暴行事件を起こした理容師、経営難の旅館を継いだ男――。
彼らはそれぞれ問題や後悔を抱えながら生きています。
そして共通しているのは、香川照之演じる「ある男」と接触した後、死を迎えることです。
最初は連続殺人事件のようにも見えます。
しかし物語が進むにつれ、私は「ある男」を犯人ではなく、もっと抽象的な存在として捉えるようになりました。
彼は人を殺しているのではない。
ただ「死」が人間の前に姿を現しているだけなのではないか。
明るいインストラクターとして現れたかと思えば、陰鬱な男として登場し、ある時は塾講師、またある時は別人のような顔を見せる。
その変幻自在な姿は、一人の人間というより概念的な存在を思わせます。
本作はホラーというより、「死」という避けられない現象を擬人化した寓話として観るべき作品なのかもしれません。
堂本刑事は観客そのものだった
本作で興味深かったのは、中村アン演じる堂本刑事の存在です。
死者たちの髪が不自然に刈り取られていることに気付き、彼女はそこに何らかの意味や法則を見出そうとします。
なぜ死んだのか。
誰が殺したのか。
そこにどんな理由があるのか。
だが、映画はその期待を裏切ります。
特に象徴的なのが、最初に死亡した女性の夫の言葉です。
「妻が死んだのは事故や天災と同じだと思っています」
この一言によって、堂本が追い続けてきた「意味」は崩れ去ります。
そして気付かされるのです。
堂本刑事は観客そのものだったのだと。
私たちは物語を観ると原因や動機を求めます。
犯人を探し、法則を探し、納得できる答えを探そうとする。
しかし本作が提示するのは、その欲望への拒絶です。
死に意味などない。
死は突然やって来る。
それだけだ。
テーマは理解できるが、私には凡庸に感じられた
ただ、ここが私には引っ掛かりました。
本作が語ろうとしていることは理解できます。
しかし、
「死は突然訪れる」
というテーマそのものは、それほど新鮮なものではありません。
しかも本作は複数の登場人物を用い、長い時間をかけてそこへ到達します。
その割には、「死に意味はない」という結論以上の発見があまり見出せませんでした。
同じテーマをエンターテインメントとして成立させていた作品なら、『ファイナル・デッド』の方が強烈です。
また、複数の人物のエピソードを一点に収束させる構成の巧みさで言えば、『Weapons』の方が上手かったように思います。
本作はテーマを提示することには成功しているものの、そこからさらに一歩踏み込めていない印象が残りました。
ホラーというよりブラックコメディに見えた
むしろ私が面白く感じたのは、恐怖演出ではなく、どこかブラックコメディ的な部分でした。
例えば冒頭。
食堂で働く女性に「ある男」がお金を払い、お釣りとして250円を受け取ります。
そして終盤、今度はガソリンスタンド店員として現れた「ある男」が、逆に250円を支払う。
おそらく物語の円環構造を示す演出なのでしょう。
しかし、その律儀な250円に妙なおかしみを感じてしまい、思わず吹き出してしまいました。
またラストシーンも印象的です。
牧場に現れる「ある男」。
彼と出会ってしまった井之脇海演じる名もない人物も、おそらくこの後、意味のない死を迎えるのでしょう。
だが、その瞬間に映画は終わります。
まるで、
「この先は分かるだろう?」
とでも言うように。
ポスターで煙を吹かせていた「ある男」が、最後まで観客を煙に巻き続ける。
そのメタ的な締め方は嫌いではありませんでした。
総評
香川照之の演技はさすがでした。
一人の人物とは思えないほど多彩な顔を見せながら、それでいて常に不穏な気配を漂わせている。
本作最大の見どころは間違いなく彼でしょう。
ただ、作品全体としては私には少々肩透かしでした。
「死は意味なく訪れる」というテーマは理解できる。
しかし、その結論に到達するまでの過程が長く、私にはどうしても既視感のある作品に映ってしまいました。
ドラマ版を観ている人ならまた違った印象を受けるのかもしれませんが、少なくとも劇場版単体で観た限りでは、
「死」を擬人化した着想は面白いが、その先にある驚きが足りなかった作品
というのが私の感想です。
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