※この記事はネタバレありです!
監督:クリストファー・B・ランドン
脚本:クリストファー・B・ランドン、マイケル・ケネディ
主演:ヴィンス・ヴォーン、キャスリン・ニュートン

- 古典的な「入れ替わり」をスラッシャーホラーへ昇華
- 主人公は女子高生ではなく殺人鬼?ダブル主演の怪演
- ベタな学園ドラマを逆手に取ったブラックなカタルシス
- 映画の贅肉を削ぎ落とした、非常に巧みな脚本
- ラストは「ダークハーフ(暗黒面)」との決着
- 総評:「午後のロードショー」で定期観賞したい快作
古典的な「入れ替わり」をスラッシャーホラーへ昇華
物語のモチーフは「人格の入れ替わり」。古くから数多くの作品で使われてきた王道の設定で、近年では『君の名は。』でも話題になりました。原題の『Freaky』だけど、本作はディズニーの古典的名作入れ替わり映画『フリーキー・フライデー』への血まみれのオマージュなのだそうな。
しかし、本作が映画ファンを唸らせるのは、そのクラシックな設定に、容赦ないスラッシャーホラーと冴えないティーンの青春コメディを大胆に融合させた点です。監督は『ハッピー・デス・デイ』シリーズで知られるクリストファー・B・ランドン。ジャンル映画のアイデアを掛け合わせ、B級の皮を被ったA級の超娯楽作へ仕上げることに長けた監督だけに、本作も期待を裏切りません。
主人公は女子高生ではなく殺人鬼?ダブル主演の怪演
冒頭では、いかにもアメリカの青春映画らしいティーンエイジャーたちが、街を恐怖に陥れる連続殺人鬼「ブリスフィールド・ブッチャー」の噂話をしています。そこへ本人(ヴィンス・ヴォーン)が現れ、容赦なく4人を惨殺。開始早々、スラッシャー映画としての血飛沫と勢いを見せつけます。
その後、主人公ミリー(キャスリン・ニュートン)が登場しますが、人格が入れ替わってからがこの映画の本番です。
中身が女子高生になった殺人鬼を演じる、196cmの巨漢ヴィンス・ヴォーンが完全に画面を支配します。歩き方、怯え方、手の動き、恋する乙女の視線まで、細部まで完璧に「スクールカースト最底辺の女子高生」を演じ切っており、その絵面の狂気と愛らしさのギャップだけで爆笑を禁じ得ません。
対するキャスリン・ニュートンも、中身が殺人鬼になってからの冷徹でギョッとするほど美しいキャットスーツ姿と鋭い眼光が素晴らしく、二人の見事な対比が物語を牽引します。
ベタな学園ドラマを逆手に取ったブラックなカタルシス
ミリーは父親を亡くし、アルコールに依存気味の母親との関係に悩み、学校では教師や同級生から軽んじられる典型的な「冴えない女子高生」です。唯一の味方は、親友のナイラとジョシュ、そして密かに想いを寄せるブッカー。
アメリカの学園映画でよく見るステレオタイプな人物配置ですが、本作はそれをあえて誇張してコメディとして機能させています。
本来のミリーの身体に入った殺人鬼は、その狂気を利用して、彼女を虐げてきた人々を次々と血祭りにあげていきます。倫理的には決して許されませんが、観客は「いけない」と知りつつも、理不尽な環境への最高に不謹慎なデトックスとして、どこか痛快さを覚えてしまう。
この危ういカタルシスこそが本作のブラックユーモアの真骨頂です。皮肉にも、殺人鬼の暴走によってミリーの学校での立場は改善され、母親とも本音をぶつけ合うきっかけが生まれる展開の皮肉さが実にコミカルです。
映画の贅肉を削ぎ落とした、非常に巧みな脚本
一見すると悪趣味なポップコーンムービーですが、脚本は驚くほど丁寧に設計されています。
序盤で人物紹介と入れ替わりのルールを提示し、中盤で「元に戻れる24時間の時間制限」を設けることで一気に緊張感を高める。このタイムリミットが物語全体の推進力となり、映画の贅肉を極限まで削ぎ落とした102分という上映時間の中で、無駄なくストーリーを転がしていきます。まさにエンターテインメント映画として理想的な構成です。
ラストは「ダークハーフ(暗黒面)」との決着
終盤、ブッチャーは倒されたかと思いきや再び姿を現します。初見では「スラッシャー映画お決まりのしつこい蛇足では?」とも感じましたが、改めて考えると、この展開には深い意味があります。
物語を通して殺人鬼ブッチャーは、ミリーが心の中に閉じ込めていた「抑圧された怒り」や「世界への反抗心」を代わりに体現する存在になっていました。つまり彼は、単なる連続殺人鬼ではなく、ミリー自身のダークハーフ(暗黒面)そのものだったのです。
だからこそ、他人の力に頼るのではなく、最後にもう一度自分自身の肉体で対峙し、決着をつける必要があったのでしょう。 ラストで彼女が放つ「あたし、イケてる(強い)から」というセリフは、自信を持てなかった少女が殻を破り、自分自身を真に肯定できるようになった瞬間を意味しています。
総評:「午後のロードショー」で定期観賞したい快作
『ザ・スイッチ』は、スラッシャー、青春、入れ替わりという相性の悪そうな要素を職人技で見事にまとめ上げた快作でした。
ロッテントマトスコアも批評家84%、ポップコーンメーター(観客評価)80%と批評家の方が若干高いです。
ヴィンス・ヴォーンの怪演はもちろんですが、笑いとホラー、そして主人公の精神的成長までを102分で描き切った脚本の美しさに感心させられます。肩肘張らずに楽しめるエンタメとして完成度が非常に高く、数年おきにテレビでふと放送してほしいと思える愛すべき一本。クリストファー・B・ランドンは、やはり信頼できるジャンル映画職人だと改めて確信しました。
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