※この記事はネタバレありです!
2025年アメリカ公開、2026年日本公開
監督:フランシス・ローレンス
脚本:J・T・モルナー
主演:クーパー・ホフマン、デヴィッド・ジョンソン、マーク・ハミル

原作は「リチャード・バックマン時代」のスティーヴン・キングの小説。今回映画を視聴するにあたり、原作小説を購読しているので、原作がそもそもどういった経緯で描かれ、スティーヴン・キングがどういう意味を込めていたのかを最初に記載します。
「ベトナム戦争の影」キングの実質的な処女作
今作はキングが大学1年生の時に書かれている、実質的な彼の処女作。ちょうどその頃アメリカではベトナム戦争があり、ロングウォークに参加するというのは徴兵されることの象徴。
少年たちが途中で脱落していくのは戦死したということ。「少佐(マーク・ハミル)」は、名前がないことから分かるように当時のアメリカ社会のシステムで、沿道で歓声をあげ、少年たちの髪の毛や記念品を欲しがる「一般の観客たち」の不気味さもこの作品の大きな特徴。
これは「若者が戦地で死んでいくのを、テレビの前でポップコーンを食べながら消費していたアメリカ市民」を表している。
そう、完全にベトナム戦争とそれを継続している当時のアメリカ政府への批判として描かれているんですよ。
ベトナムという戦地へ赴き、戦争を体験することで彼らは人間性と青春時代を喪失させられる。最初は純粋に死の恐怖だけだったけど、心が壊れていく恐怖も描かれる。
そこに心身が壊れていく中で、少年たちが交わすユーモア、下ネタ、告白。言葉だけが彼らの人間性を繋ぎ止める命綱になる。
最後はアンハッピーエンドで終わるのも、現実に対する怒りがあるから。
映画版の明暗:アート映画のような美しさと、致命的な「牙の抜かれ方」
では、待ちに待った映画版はどうか。 結論から言えば、物語の終盤まではかなり見応えのある、まるでインディーズのアート映画のような静謐な緊張感が漂っていた。
冒頭、ロングウォークへの参加を祝う不気味なメッセージから始まる演出は、太平洋戦争時の日本における「赤紙(召集令状)」を笑顔で手渡されるかのような狂気を感じさせる。
ギャラティ(クーパー・ホフマン)が母親と引き離され、IDを剥奪される(=名前という尊厳を奪われる)シークエンスも原作準拠で実に見事だ。 参加メンバーがタグを渡される箇所はモロに「ドッグタグ(認識票)」初めの脱落者が射殺され、観客が「これは本物の殺戮ゲームだ」と気づいた瞬間にタイトルが浮かび上がる演出には、思わず鳥肌が立った。
また、映画独自の改変として、ギャラティの父親が全体主義に抗った末に「少佐」に射殺されたという過去が追加されている。
これにより、彼のゲームにかける動機がより強固になり、ドラマとしての厚みが増した。ゲイリー・バーコヴィッチ(チャーリー・プラマー)が己の失言を悔い、極限状態で人間性の片鱗を見せて自害するアレンジも、「人は追い詰められた時にどう生きるか」というテーマに寄り添っており、好感が持てた。
――だからこそ、最後の最後で敢行された「ひどすぎる原作改変」に、私は激しい怒りを禁じ得ない。
「システム」を「ただの悪役」に格下げした監督の悪癖
結末の具体的な描写は劇場で確かめてほしいが、一言で言えば、映画は「少佐」の扱いを致命的に誤ってしまった。 原作における少佐は、名もなきアメリカの国家権力であり、ポール・ニューマン主演の映画『暴力脱獄』の刑務所長のような「逆らえないシステムそのもの」として描かれている。
エンタメとして劇的な決着をつけたい意図は理解できるが、それはサングラスが壊れるといった象徴的な描写に留めるべきだった。映画版は、システムだったはずの少佐を、あまりにも俗っぽい「一人の悪役」として処理してしまったのだ。これでは、キングが原作に込めた全体主義や戦争への怒りが、単なる「個人の復讐劇」に矮小化されてしまう。
振り返れば、フランシス・ローレンス監督には前科がある。彼は映画『アイ・アム・レジェンド』でも、リチャード・マシスンの原作が持つ不朽のラスト(『地球最後の男』の意味)を、ハリウッド的なハッピーエンドに改悪した過去がある。あの時の嫌な予感が、最悪の形で的中してしまったと言わざるを得ない。
さらに皮肉なのは、少佐を演じたマーク・ハミルだ。彼は今年公開のキング原作映画『サンキュー、チャック』でも権威的な役を演じているが、かつて『スター・ウォーズ』で巨大な帝国(システム)を打ち破ったレジスタンスの英雄が、今や少年たちを蹂躙するシステムそのものを怪演している姿には、複雑なため息しか出ない。
2026年はまだ半分を残しているが、原作の精神を冒涜するようなこの安易なラストの改変により、本作は現時点で私の中の「今年度ワースト映画」に決定してしまった。非常に惜しい、そしてあまりにも罪深い一本だ。
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